会社を辞めてYouTuberになった人間の末路
働き始めてから半年が経った。
内定が出た時はとても嬉しくて幸せな気持ちだったが、いざ入社すると、毎日朝早くから夜遅くまでやりたくもない仕事をやり、上司に叱られる日々が始まった。
僕はこんなことをするために僕は社会人になったのか?
これがあと40年も続くのか……?
無理だ。耐えられない。自由に生きていたい。
そして、僕は、会社を辞めた。
会社を辞めても再就職なんかしたってつらいだけだし、朝早く起きて会社に行くという行為が僕には向いていない。
「そうだ!YouTuberになろう!!」
YouTuberなら自由な時間に作業ができるし、誰にも叱られず自由にやりたいことができる!!
よーし!そうと決まればまずはカメラとパソコンを揃えるぞ!
ーー道具は揃った。
ここで問題が発生した。
「何の動画を撮ればいいんだろう……?」
僕は何か特技があるわけでもないし、何かに熱中したこともない人間だ。
撮りたい動画なんてなかった。
それでも、YouTuberとして生きていくなら動画を撮らないといけない。
2時間くらい悩んで、会社を辞めてこれからYouTuberとして活動していくのでよろしく!というような自己紹介動画を投稿した。
次の日、投稿した動画の再生回数は0回だった。
誰も見てくれなかったことに落胆しつつも今日撮るネタを考える。
何にも思い浮かばなかったので
有名YouTuberの動画を参考にして、動画を撮ってYouTubeにアップした。
次の日、動画の再生回数を確認すると、5回だった。
特にコメントもなし。チャンネル登録者も0人のまま。
今日投稿するネタを考える。全然思い付かない。
「何だかYouTuberってのも大変だなあ……」
こんなんじゃYouTubeで収益を上げることすらできないのでは……?
何か再生回数を稼ぐ方法はないのか……
1つのアイデアが浮かんできた。
「今話題のニュースに対して、過激で不謹慎な意見を発信すれば再生回数稼げるのでは!?」
炎上マーケティングである。
頭の悪い僕は安直な発想で、再生回数を稼ぐためだけに、ニュースにのっかり
「女優◯◯の不倫騒動、あの手の顔の女は不倫大好きに違いない!」というタイトルの動画をアップした。
偏見にまみれた、女性軽視も甚だしい意見をひたすら喋り続けた。
次の日、炎上マーケティングの動画の再生回数を確認すると、500回も再生されていた。
高評価3、低評価70、コメント3
「お前最低な奴だな」
「女性に対して失礼ではないでしょうか」「こういうやつには構わないのが1番」
そんなコメントが並んでいた。
チャンネル登録者数が2人になった。
この方向性だと再生回数を稼げるんだな。
そう思った僕は次の日も、そのまた次の日も連日、時事ネタを痛烈に批判する動画をあげ続けた。
しかし、だんだんと伸びが悪くなり相手にされなくなってるのを感じた。
何よりもこんな方法じゃ人を笑顔にできない。
僕はそう思って、動画のスタイルを変えることにした。
「そうだ!ゲーム実況をしよう!あれならゲームさえあれば企画する必要もないし!」
僕は人気ゲームを買ってゲーム実況の動画を投稿し始めた。
しかし、ゲーム実況の動画を投稿するYouTuberは今や飽和状態。
余程面白かったり、他の人とは違う何かがないと見てもらえない。
平凡な僕のゲーム実況動画は才能あるクリエイターたちの実況動画に埋もれていった。
YouTuberとして活動を始めて3ヶ月が経った。
チャンネル登録者は40人。
1番伸びた動画の再生回数は炎上マーケティングでの700回。
この頃は動画を撮るのも編集するのも面倒になって動画投稿をやめている。
自分にYouTuberとしての才能がないことに僕は気付いた。
会社勤めの時に貯めていた貯金もそろそろ底をつく。
「やっぱり……凡人は働くしかないのかな……」
僕はハローワークに通い始めた。
まだ若いので幸い、仕事はすぐに見つかった。
こうして朝早くから夜遅くまで働く生活が戻ってきた。
だけど、前の職場よりも給料はだいぶ下がって休みも減った。
YouTuberとして活動した3ヶ月で自分がいかにクリエイターとしての才能がない凡人ということを思い知らされた。
何かを考えることができない人間は上司に言われたことをロボットのように感情を持たずやるしかできない。上司に叱られても感情を持たずに謝るしかない。
才能のない人間はそうやって生きていくんだ。
※このお話はフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません。