突如散った河川敷の恋

今週のお題「運動不足」


学生の頃は部活で毎日のように運動をしていたが、社会人になってからは体を動かす機会が格段に減ってしまった。


これではいけないと思い、僕は近所の河川敷でランニングを始めることにした。



そう決意をして、ランニングを始めて2、3回目の出来事である。

仕事が終わった後、夕陽を浴びながらランニングをしていると、凄く美人な女性とすれ違った。

目はパッチリとした二重で鼻筋がスッと通っていた。パッと見て20代中盤くらいだろうか。

夕陽を浴びた彼女はとても美しく、映画のヒロインのようだった。

すれ違った後に僕は思わず振り返って彼女を見てしまった。

河川敷を散歩でもしていたのだろう、周りの景色を楽しみながらゆっくりと歩いていた。

彼女の周りの世界が一際と輝いていた。



僕は家に帰ってからも彼女のことが頭から離れなかった。

次の日、河川敷をランニングしたが、彼女とは出会えなかった。

また彼女とすれ違えることを期待してしまっている自分がいた。


そのまた次の日、河川敷が夕陽に染まる時間帯、ランニングをしていると待望の彼女とすれ違った。

今日も彼女は美しく、すれ違うだけでドキドキと胸が高鳴った。

そこからの記憶はあんまりなくて、気付いたらランニングを終えて家に着いていた。



しばらくランニングを続けていると彼女は水曜日と金曜日の夕方にあの河川敷で散歩をしていることが分かった。



自然と僕のランニングは水曜日と金曜日の週2回になった。

疲れていてランニングをしたくない日もあったが、彼女とすれ違うためなら、と思い、雨の日以外は走り続けた。


やがて、僕は彼女と何回もすれ違ってるうちにこんなことを考えるようになった。

「彼女に話しかけてみようかな……」


彼女がどんな声で話すのか知りたい。

彼女がどんな人なのか知りたい。

彼女と仲良くなりたい。

気持ちは日々大きくなっていく一方だった。



ある日曜日の朝、僕は普段より早く目が覚めた。

「やることもないから走る日じゃないけどランニングに行こうかな」と思い、いつもの河川敷に向かった。

まだ朝9時ということもあり、人は少なかった。

いつものように走っていると僕は信じられない光景を目の当たりにした。


彼女が、ベビーカーを押しながら、男と一緒に歩いていた。

楽しそうに男と笑いながら話す彼女、少し高めでハスキーな声だった。

彼女の笑顔がとても綺麗で見惚れてしまい、同時に悲しくなった。



僕は帰ってからしばらく何にも手がつかなかった。

淡い恋心は突如打ち砕かれた。


あの日から僕はあの河川敷に行っていない。

ランニングもやめた。


そして僕は今、運動不足です。