数値評価型就職活動

「就活は就活生のどの部分をどうやって評価してるのか分からない!理不尽だ!」

そんな声が相次ぎ、2030年、とある会社が就活生の能力を数値化する検査機器「WS-2030」を開発した。
その機器を使えば、就活生の能力を数値化することができた。
ストレス耐性、コミュニケーション能力、ケアレスミスをしない注意力など、社会人ならばどこの企業でも求められる能力を総合的に数値化できる画期的な機器だった。
この数値が高ければ高いほど、社会人としての素質があると言える。

最初は「そんな機器で就活生の能力が分かるわけないだろう」
と疑う企業の採用担当者が多かった。

しかし、WS-2030検査結果の数値が高い就活生や転職活動をしている人を採用した企業がグングンと業績を伸ばしているのを見て、企業はWS-2030の検査結果を採用不採用の判断材料として取り入れるようになっていった。

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そして機器の開発から15年後……
今や、日本の就活はWS-2030が弾き出す数値が絶対的な指標となっている。
会社の募集要項に「採用条件、WS-2030の検査結果が150以上であること。」なんていう文章まで明記されるくらいだ。

就活生はWS-2030で数値を測定してから、自分の数値に見合った企業に就活をするのが当たり前になり、教育熱心な親なんかは中学生の子どもにWS-2030の検査を受けさせることもある。

だけど、厄介なことにWS-2030の数値はちょっとやそっとじゃ変わらない。
ストレス耐性など、先天的な部分は努力じゃなんともならないから。
生まれつき社会に不適合な人間は存在する。
WS-2030はそういう人間を炙り出す機械でもあった。

WS-2030の検査で低い数値が出た人間は一気に就職の選択肢が狭まる。
どんなにまじめに勉強を頑張ってきた人間でも、WS-2030の数値が低いだけで内定を得るのが急激に難しくなる。

WS-2030の数値が低くて自分の将来の夢が叶わないことに絶望して塞ぎ込む人間も多く現れた。

一方で、今までずっと遊び呆けてきてろくに勉強なんかしてこなかったのに、WS-2030の検査結果が良いだけで大手企業から内定を大量に得る人間もいる。


これが今の日本の就活だ。
就活生は機械で社会人としての基礎能力を数値化され、その数値で判断される。
本人のこれまでの努力は二の次。

昔と比べて、明らかに就活は分かりやすくなった。
採用されるのはWS-2030の数値が高いから。
不採用はWS-2030の数値が低いから。
極論を言えばこれに尽きる。

だが、昔と今、どっちの時代の就活の方が良かったのか僕は分からない。