もし、ロト6で2億円当たったら……(2)
サヤカちゃんのことが頭から離れなくなった俺は、メールを送っては携帯をチェックして返事があれば喜び、返事がなければ落胆するようになり、恋の病と言われても仕方がないような状況だった。
サヤカちゃんとたまに2人きりで会うこともあったが、お店で会うことが多かった。
初めてのデートから1ヶ月半を過ぎた頃、街を歩いてると、他の男と腕を組んで歩いてるサヤカちゃんを見かけた。
見間違いだと思った。
見間違いだと思いたかった。
だけど、間違いなくサヤカちゃんで。
目の前が真っ白になった。
その日の夜、サヤカちゃんにメールをした。
「昼間一緒にいた男の人はだれ?」
すぐに返信が来た。
「智さんこんばんわ♡あれはお客さんですよ〜」
サヤカちゃんはキャバクラで働いてるから他のお客さんとも腕を組んで歩くくらい普通だろうと頭では思いながらも、嫉妬心がおさまらなかった。
「あのさ……サヤカちゃんには、俺以外の男とそういうことしてほしくないな。
俺だけを見てほしい。俺と付き合ってほしい。」
勢いに任せてそんなメールを送った数秒後、激しく後悔したが、携帯の画面に表示されている送信完了の4文字。
返事を待っている時間が永遠に感じられた。
やっと震えたと思った携帯は、メールを送ってから5分後だった。
「智さんの気持ちはとっても嬉しいんだけど、私は今誰かと付き合うとかは考えられなくて……ごめんなさい。」
今思うと、完全に俺のことなんか眼中になかったんだろうな。
上手い断り方だと思うよ。
ただ、あの時の俺は馬鹿だった……
「今はってことは、いつかサヤカちゃんに振り向いてもらえる時が来るってことだよね?期待して待っててもいいかな!?」と返信をしてしまった。
それから、サヤカちゃんの連絡はなかった。
次の日、心配になった俺はお店に行って、サヤカちゃんを指名した。
いつもと様子が明らかに違っていた。
他人行儀な感じで俺を避けていた。
「ねえ、サヤカちゃん!昨日のことなんだけど、ほんとごめん!
俺が悪かったよ!また遊びに行こうよ。サヤカちゃんが欲しいものいっぱい買ってあげるからさ!!」と縋り付くように俺は言った。
「いや、あなたとはもう遊びに行きません。欲しいものもないので大丈夫です。」サヤカちゃんはゴミを見るかのような視線を向けてきた。
「ねぇ……どうして、サヤカちゃんは俺のこと嫌いになっちゃったの……」
「初めから智さんのこと好きじゃなかったです。実は私、明日でこのお店辞めるんです。だから、もうこれ以上私に付きまとわないでください。」
「えっ……そうなの……?なんで……?」
「別にあなたに伝える必要なんかないでしょ。金は持ってるかもしれないけど、あなたみたいな気持ち悪くて話もつまらなくて中身が空っぽな人間、好きになるわけないじゃん」
そこから先はよく覚えていない。
気が付いたら俺は家の床で寝ていた。
この1ヶ月半、サヤカちゃんに使ったお金は優に500万円は超えていた。
いくら2億円があるといっても出費としては少なくない。
気持ち悪くて話もつまらなくて中身が空っぽな人間。
ずっとその言葉がリフレインしてる。
悔しいがその通りだった。
俺はたまたま6個の数字を的中させて、大金を手にしたけど他は何にも変わらない自分のままだった。
何かを成し遂げたわけでもない。
この街を出よう。
誰も俺を知らない、俺も誰も知らない。
そんな街に出ていこう。
社会人になってからずっと住んできた六畳一間のアパートを退去して、都会の街並みを離れて、静かな街へと俺は引っ越すことにした。
その引っ越した先で、さらに大きな転機が訪れるとはあの時は思いもよらなかった……
続く