もし、ロト6で2億円当たったら……(3)

引っ越した先はよくわからない田舎の土地だった。


少し広めのマンションを借りた。

仕事をしていないことを告げると、不動産会社は渋ったが、金があることを伝えると態度を一気に変えた。


キャバクラにのめり込んだ日々で浪費を繰り返していたが、それでも金はまだまだあった。


引っ越してからも、だらだら過ごしているとやることがない生活に飽きてきてしまった。

朝起きて、特にすることもない1日が始まる。

テレビを見たり、本を読んだりしても時間は有り余っている。

ふと、会社で働いていた日のことを思い出す。

確かにつらいことは多かったし給料も安かったけどあの生活も悪くなかったのかなと思った。


俺はふらふらと生活しているうちに、近所にお気に入りの小料理屋を見つけた。

いつのまにか、毎日のようにそこで夜ご飯を食べて酒を飲む生活をするようになった。

一回の食事で使うのはせいぜい2〜3000円。

安いわけではないが、キャバクラ通いの日々から比べると相当安い。


小料理屋の看板娘とよく話すようになった。

名前は花という、28歳のいたって普通の、いや、どちらかといえば地味目な女だった。


俺が店に行くと

「あっ、智さんいらっしゃい。今日はカレイの煮付けがオススメですよ!」などとにこやかに迎えてくれる。


花と話してる時が俺にとっての癒しの時間だった。


ある日、花と水族館の話になって、2人でデートに行くことになった。


女の子と2人で遊ぶのはサヤカちゃんとのデート以来だった。

俺はデートに向けて、服を買い、髪を美容院で整え、来たる当日に向けて準備をした。



「智さん、お待たせしました。」

花は白いロングスカートにベージュのカーディガンという格好で現れた。

よく似合っていて可愛かった。


水族館で魚を見ながら、花が俺に聞いてきた。

「そういえば、智さんってどんなお仕事してるんですか?」


一番聞かれたくない質問だった。

悩みに悩んで

「実は働いてないんだけど、収入源があってね……」と答えた。


「あっ!不動産とか持ってるみたいな、そういう感じですか?」

「そうそう!そんな感じ……」

「そうなんですねー!」


なんとかごまかせたようだ。

宝くじが当たってその当選金で生活してるなんて言えないし、何よりなんだか格好良くない気がした。


水族館で魚を見て、定食屋で夜ご飯を食べてその日は解散した。

花とのデートはとても楽しかった。

一緒にいて落ち着く女だった。



それから数日後、小料理屋で食事をしていると、花から話しかけられた。

「ねぇ、智さん、昨日のニュースで見たんですけど、不動産の価格が急上昇してるんですって!私も不動産投資やってみようかなって思って!智さんのオススメはありますか?」


ヤバい。非常にヤバい。

本当は俺は不動産なんて持っていない。

そんなニュースも初めて聞いたし、当然知識もない。

「あぁ〜色々あるからねー今度まとめて持ってくるよ」


花に頼りになる男というアピールをしたくて、そんな約束が口から飛び出てしまった。



家に帰ってから俺は不動産について勉強を始めた。

自分でも何か持っておいた方が良いかと思って、ネットで調べてなんとなく良さそうだった4000万円の物件を購入した。


不動産投資について勉強をしてみて再確認したが、俺は馬鹿だった。

用語の意味も不動産投資の形態も全くと言っていいほど理解できなかった。

結局、花にはインターネットでオススメされているようなものを伝えた。



何度もデートしているうちに俺は花のことが本当に好きになっていた。

告白しようと何度も思ったが、サヤカちゃんの失敗が頭をよぎってためらってしまっていた。


それでもやっぱり、俺は花のことが好きで好きで仕方なくて、告白をした。


「智さんの気持ちは嬉しいです。だけど、これだけ聞かせてください。智さんは前に不動産投資のようなものでお金を稼いで仕事はしてないと言ってましたが、あれって嘘ですよね?本当は何の仕事をしてるんですか?


花には嘘を見抜かれていた。

そりゃそうかもしれない。ろくに知識もない俺の話なんて間違いだらけだったはずだ。

本当のことを話そう。そう決めた。


「実はさ……前に、宝くじが当選して、その当選金で暮らしてるんだ。」


花は驚いた表情を浮かべて聞いてきた。

「そうだったのね、じゃあ今は仕事も何にもしてないの?」


「ああ、そうだよ。でも、普通に暮らしていけるだけのお金はあるよ!」


「でもそれって私は違うと思うな。何もしていないのってなんだか虚しくない?私は働いてる人が好きだな。」

「俺、働くよ!そしたら付き合ってくれる?」

「そうね……考えさせて。」


次の日から俺は就活を始めた。

既に32歳。

俺の職歴には2年の空白ができていた。

何社も何社も受けるが全て不採用。

それでも何とか頑張り続けていた。

就活を始めて半年後、花から

「ごめんなさい。彼氏ができました。あなたとはもう会えません。」と連絡が来た。


ちょうど、30社目の不採用通知を受け取ってムシャクシャして酒を飲んでいた時だった。


まただ、またこんな結末。

金があれば全て上手くいくと思っていた俺が馬鹿だった。

1人で住むには広すぎる部屋で俺は声を上げて泣いた。


就活もやめた。

これから予定されていた面接も全てキャンセルした。

何もかもがどうでも良かった。


手元にはまだ1億以上残っている。

これから質素な生活を続ければ、働かずに一生過ごすことはできるだろうが、何もせず過ごす一生はあまりにも長過ぎる。


結局、俺はまた遠くの地へ引っ越した。

全て忘れたかった。

そこでは人とあまり関わらないように過ごしていた。


一度上げてしまった生活水準は戻すことができず、湯水のように金を使う生活は続いていった。

趣味がほしくて色々と高いものを買って一式揃えてもすぐに飽きるというのを繰り返していた。

何にも得るものはなかった。 


無為に生きているだけだった。


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……随分、長く話してしまったね。

そんな生活を8年続けて、今、俺は40歳になった。

もちろん働いてもいないし、今さら働ける気もしない。

不動産も手放したし、宝くじの当選金の残りは100万円を切った。


このままだとお金はなくなる。


だから、もう、こんな人生を終わりにしようと思ってね。

最後に自分の人生がどんなものだったか吐き出したくてついつい長く話しちゃった。


こんな長い話を聞いてくれてありがとう。


ロト6で2億円当たった時はさ、

俺は世界で一番幸せだと思ったんだよ。本当に。

でも、これって幸せだったのかな?

今となってはよく分からないよ。


じゃあそろそろ俺は行くね。

さよなら。

君は良い人生を。