自殺駅
「ねえ、知ってる?自殺駅のウワサ」
そう話すのは私の友達の沙織。
同じ高校のクラスメイトで趣味が合うので仲良くなった。
彼女には自殺願望があり、SNSで「死にたい」と呟くタイプの子だった。
実は私もそんな感じのことをSNSで発信する女だ。
とは言っても、常に本気で死にたいと思ってるわけではなくて楽しい時はとても楽しいし、嫌なことがあったり、ふとした瞬間に、死にたいな、と思いSNSに吐き出す。
死にたいというのが現実から逃げたいときに使う言葉になっている。
「自殺駅のウワサね、あんまり詳しくは知らないけど、あんなのただの都市伝説みたいなものじゃないの?」
私が知っている内容はこうだ。
自殺駅と呼ばれる駅がある。
その駅である「おまじない」をすれば、恐怖心がなくなり、向かってくる列車にカラダが吸い寄せられて楽に死ねる。
おまけにその自殺駅は私の家から歩いて5分程の駅である。
通学で毎日使っているが、何の変哲もない普通の駅だ。
「実は、自殺駅でするおまじないについて分かったの!加奈の家の近くに自殺駅があるんだよね?今日の放課後行ってみようよ。私もこれで死ねちゃうかも☆なんてね☆」
死にたさを微塵も感じさせない笑顔を浮かべて沙織は言った。
沙織は死にたい死にたいと言うのに、顔はとても可愛くて男によくモテる。
この子と付き合った男は、最初はとても幸せそうだが、例外なく沙織に振り回されてすぐに別れる。
〜放課後〜
「ねえ沙織、自殺駅でするおまじないって何よ。そろそろ教えてよ。」
私たちは自殺駅、つまり私の最寄駅に電車で向かっていた。
「あのね〜!3号車のところに一本だけとても錆びてる柱があるんだ。そこにね、額をくっつけて目を閉じて「翼を下さい」って頭の中で唱えるの!そうすれば、恐怖心なく電車にカラダが吸い寄せられて楽になれるんだってさ!」
3号車のところに柱……
私は最寄駅のことを思い浮かべる。
たくさん柱があるが、そういえば、確かに一本だけ錆びてるのがあった気がする。
電車が最寄駅に着いた。
「ねえ、加奈見てあれだよあれ!一本だけボロボロの柱があるよ!私、おまじないやってみるね☆」
そう言うと沙織は柱に額をくっつけて目を閉じた。
沙織は10秒ほど経ってから、額を離して目を開けた。
「次は加奈の番だよ!」
どうせこんなの都市伝説だ。
私は沙織の温もりが感じられる柱に額をくっつけて目を閉じてから「翼を下さい」と心の中で唱えた。
「よし!これで電車が来ても怖くないから人生辞めれるわよ!何度も飛び込もうとしたけど怖くてダメだったの……加奈も一緒に飛び込んでくれるよね?」
私は無言で曖昧に頷く。
沙織が何度も電車に飛び込もうとしていたのは初めて聞いた。
「あっ、加奈!電車が来たよ!」
この駅には停まらない快速電車が近付いてくる。
沙織は足を踏み出そうとするが、カラダが固まってしまっていた。私もそうだった。
電車が過ぎ去った後に沙織は息を吐いて
「ははは……すっごく怖かった……こんなんじゃやっぱり飛び込めないね。無理だよ無理!やっぱり都市伝説かぁ〜!何だか緊張したら喉乾いちゃった!」と言って自動販売機で水を買った。
「じゃあ、私は帰るね!加奈、また明日〜」
そう言って沙織は発車待ちの電車に乗り込んで帰って行った。
私は歩いて帰れるので改札を出て、家に向かって歩き始めた。
帰り道、スマホを使おうとしたが、充電切れで電源が入らなかった。
帰って充電しようと思った。
次の日の朝、充電器が壊れていて充電ができなかったが、学校ではどうしてもスマホを使いたかった私はコンビニでモバイルバッテリーを購入して、駅へと向かった。
昨日ぶりに携帯を起動すると数人の友達からのラインが来ていた。
1つ1つチェックしようと思ったが、あるメールが目に入って驚愕した。
「昨日、夕方、2年B組の渡辺沙織さんが亡くなりました。」
という学校からのメールだった。
沙織が死んだ……??嘘……
慌ててラインを確認すると、沙織から一通のラインが届いていた。送信時間を見ると、昨日、沙織と別れてからすぐに送られたものだった。
「ごめん!加奈、調べてみたらさっきの自殺駅のおまじないの続きがあったの!柱に額をくっつけて「翼を下さい」って唱えてから、水を飲む必要があるんだって!私、さっき水買ったから飲んでみるね〜(*≧∀≦*)」
水……?そういえば、私も今朝、水を飲んで……ゴオオオオ!!!!!
快速電車が勢いよく向かってくる。
私のカラダは、その電車に吸い寄せられていった。
〜完〜