世界一幸せな人
月曜日の朝がやってくる。
多くの人が忌み嫌う、月曜日の朝が……
ただ、彼は違った。
なぜなら幸生(さちお)は世界一幸せな人だから。
月曜日の朝が来る。カーテンを開けて幸生は
「今日はいい天気だ!幸せだなあ!」と呟く。
朝食を食べながら幸生は、食事ができるって幸せだなあと考える。
今は朝5時、太陽が僅かに昇ったばかりである。
幸生は朝食を詰め込んで、家を出る。
朝6時半、誰もいないうちに職場に着く。
幸生の仕事は小さな鉄工所の事務である。
最初は工場での作業が中心だったが、適性がなくて事務で電話応対や業務日報の作成をやっている。
幸生は仕事があるだけで自分は幸せだなあと思っている。
何で幸生はこんなに早く会社に来ているのか?
金曜の夕方に上司から業務日報の出来が悪過ぎると注意を受けたので、それを直すために来ているのである。
幸生は注意をしてもらえて自分は期待されてる!幸せだなあという気持ちで月曜日の朝早くからニコニコしながら職場に来たのである。
やがて職場に人が続々出勤してくるが、幸生に挨拶する者はいない。
彼が職場で浮いているのは幸生以外の社員全員が周知の事実。仕事があまりにもできない無能。それが幸生へのレッテルだ。
幸生はそんなレッテルを知らない。
知らなければそんなレッテルは存在しないのと同じであり、そういう意味でも幸生は幸せである。
上司が出社して、幸生の業務日報を見て
みんなの前で怒鳴りつける。
「なんだこの日報は!!ふざけるな!小学生の日記か!!お前はもう35歳だろ!なんでこんなこともできないんだ!」
幸生は謝罪する。ああ、また自分が成長するきっかけを頂いた。自分は幸せだなあ。
結局、幸生は業務日報を7回も直されて、最終修正が終わる頃には21時になっていた。
帰り道のスーパーで弁当を買いに行くと、半額のシールが貼られていて、幸生は
「残業してたから半額で弁当が食べられる!幸せだなあ」と思って、活気がない弁当売り場で独り微笑むのであった。
家に帰って半額弁当を食べ一息ついた幸生は
今日も雨風をしのげる場所で寝られて、自分はとても幸せだと思いながら眠りに落ちていく。
こうして、明日からもまた世界一幸せな人、幸生の日常が続いていく。