もし、ロト6で2億円当たったら……(1)

俺は智(さとし)、40歳。

少し長くなるが、昔の話をするから聞いてもらいたい。



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今から10年前。


俺は彼女もいなければ友達もいない人間だった。

一応働いてはいたが、うだつがあがらない社会人で、世間的に見れば、俺の働く会社は小さな企業で給料もかなり安かった。


そんな俺に大きな転機が訪れるなんて夢にも思わなかった……



ある休日、特にやることもなく、俺は昼から1人で居酒屋で酒を飲んでいた。

帰りになんとなくロト6を1000円分購入した。

それからロト6を買ったことはすっかり忘れていたが、当選日から数日後にふと買ったことを思い出した。

当選番号を確認すると、なんと、1等の2億円が当たっていた。


そこから数日間はフワフワした気分で過ごしていた。

何にも手に付かないような状況で珍しく仕事でミスを連発した。

上司に叱られても何とも思わなかった。

もはや、意識はこんな小さな会社にはなかったからだ。



そして、俺は会社に退職すると伝えて仕事を辞めた。

辞めても全く困ることなんかない。


俺の手元には2億円があった。

何か欲しいものがあるわけでもなければ、やりたいこともないけど、この2億円で俺は変われる。

そんな気がした。



2億円を手にしてから最初の1ヶ月はのんびりとした生活を思い切り楽しんだ。

好きな時間に起きて、好きな時間に寝る。


朝早く起きて、満員電車に詰め込まれて、夜遅くまで働く生活から解放されただけで幸せだった。

だけど、1ヶ月も人と話をしない生活を続けているうちに悲しくなってきた。

人とお喋りがしたいと思った俺はキャバクラに行ってみた。

仕事をしていた頃に上司の付き合いで2、3回行ったことがあるくらいだが、とても気持ちよく喋れたことを覚えている。


初めて行った日はとりあえず10万円くらい一晩で使ってみた。

10万円なんか大したことない額だったが、キャバ嬢はそれなりに気を良くしてくれたみたいで、楽しくお喋りさせてくれた。

俺はしばらく感じてなかった心の安らぎと胸のトキメキを感じた。

「また来たいな……」と思った。


次の日、またそのお店に足を運んだ。

一杯目から高いお酒を頼むと、昨日よりもキャバ嬢たちは色めき立っていたような感じがした。

その中のとても俺好みのサヤカちゃんという子がいた。

今まで女と付き合ったことがない俺はとても緊張したが、サヤカちゃんに連絡先を聞いてみた。

サヤカちゃんはニコニコしながら「もちろんいいですよぉ♡智さんと遊びに行きたいです♡」と言ってくれた。


すっかり舞い上がってしまった俺は店を出てすぐにサヤカちゃんに連絡をした。

「今日は楽しかった!また会いたいなあ」と

サヤカちゃんはすぐに返事をくれた。

「こちらこそ楽しかったです♡またお喋りしたいなあ♡」

ハートマークを見てサヤカちゃんは俺のことを好きなんじゃないかな?と思い、さらに舞い上がった。

さっき払ってきた30万円のことなんかすっかりどうでもよくなった。



そして、俺は次の日、またキャバクラに行ってしまった。

3日連続のキャバクラ。

お目当てはもちろんサヤカちゃん。


サヤカちゃんに良いところを見せたかった俺は100万円のシャンパンを開けた。

サヤカちゃんはとっても喜んでくれて、帰り際に呼び止められて

「あの……実は昨日教えたのはお店の携帯の連絡先で、これは私個人の連絡先です♡連絡待ってますね♡」と言われて個人的な連絡先を教えてくれた。


サヤカちゃんに連絡を取って、店の外で会う約束をした。

俺は完全に自分に波が来ていると思った。



そして、サヤカちゃんとのデートの日。

煌びやかな私服と高そうなバッグを持ってサヤカちゃんは現れた。

とても23歳とは思えないような格好だった。

「智さんこんにちは!今日はよろしくお願いしますね♡」とニッコリ笑うサヤカちゃんは天使かと思った。


サヤカちゃんが前から気になってたというお店でショッピングを楽しんで、夜景の見えるイタリアンレストランでディナーをするというデートプランだった。


「見て見て智さん!このネックレスどうかな?私に似合うかな?」と話しかけられる。

ゴールドを基調としたネックレスはサヤカちゃんによく似合いそうだった。

「うん、似合うと思うよ。」と俺は答えた。

「ほんと!ありがとー!智さんにそう言われると欲しくなっちゃったな♡……あっ、でも20万円かぁ……高いなあ……」サヤカちゃんが目に見えて落胆している。

「買ってあげよっか?」と俺は言った。

20万円でサヤカちゃんが喜んでくれるなら全然問題ない。

「えっ、嬉しい♡智さんだいすき〜♡」

サヤカちゃんが腕にしがみ付いてきた。

フワッと香水の良い香りがして、俺はとてもドキドキした。


夕食は夜景を眺めながらイタリアンを楽しんだ。

もちろん、ここも全て俺の奢りだ。

サヤカちゃんは目をキラキラさせながら食事を楽しんでいて、良い雰囲気だった。

さて、ここからが勝負だ。

実はサヤカちゃんには話していなかったが、近くのホテルの予約を取っていた。

なんとかしてサヤカちゃんと一夜を過ごし、俺は童貞卒業をしたかった。


「あのさ、サヤカちゃん。これからなんだけど実は部屋を取っててさ、どうかな?」

「そうなんですか!気持ちはとっても嬉しいですが、明日、朝早くから用事があって……帰らないといけないの……ごめんなさい」

申し訳なさそうにサヤカちゃんが答えた。

用事があるなら仕方ないか、まあ焦ることもない。と俺は思った。


家に帰って1日のデートを思い返しているとドキドキが再燃してあんまり寝付けなかった。

さっき別れたばかりなのにもう会いたくなってる。

俺はサヤカちゃんに完全に恋をしてしまっていた。



続く。