夢見の飴 〜1〜

「夢見の水!寝る前に飲むだけで貴方の理想の夢が見られます!」

ネットサーフィンをしていると気になる広告が目に入ってきた。

明日も仕事だからそろそろ寝ようと思っていたが、ついついクリックして広告を開いてしまった。


えーと……なるほど、寝る前にこの夢見の水を1パック飲むと、自分の理想の夢が見られるのか。

「そんなわけねーじゃん!」と思いながら、「もし、理想の夢が見られなかったら返金します!」という宣伝文句を信じ、5パック入りで30000円の夢見の水を購入した。


どうせ理想の夢なんか見られないけど、最近悪夢をよくみてしまい、不眠症気味の俺には心惹かれるキャッチコピーだった。

でもまあ、どうせすぐに返品することになるんだろうなと思った。 

金が返ってくるなら悪くはない。



数日後、家に夢見の水が届いた。

正直言うと届いてる荷物を見るまで頼んでいたことをすっかり忘れていた。


中には野菜ジュースが入っているような大きさの紙パックが5個入っていた。

パッケージには気持ち良さそうに眠りこけているピンクのウサギが印刷されていた。

どう見ても怪しい。


パックを開けて水を飲む。

少し甘酸っぱい。何が入ってるかは明記されていなかったけど、別に不味くはなかった。

まあ飲みやすいな。

あっさりと飲み干した。



……気がつくと、俺は大学のキャンパスにいた。

講義が終わってふらふらと歩いてると、学科のアイドルと呼ばれている女の子が俺を見付けて笑顔で近付いてきた。

「おつかれさま!講義終わって暇してるんだよね〜良かったら2人で遊びに行こうよ」

心なしか彼女の顔が赤い気がする。

俺は二つ返事で了承した。


カラオケに行った。2人でおしゃべりしながら買い物をした。

暗い大学生に光が差すような時間だった。


帰り道、夕陽に染まる公園で彼女から告白された。

ずっと好きだったんです!と伝える彼女は間違いなく、これまで見てきた女の子の中で一番綺麗だった。

喜んで、と伝えた瞬間に、見覚えのある天井が見えた。



夢……だったのか?

いや、そんなことはあるはずがない!

あんなにリアルだったんだ!

俺は彼女と付き合うことになったはずなんだ……

そう思って、スマホを見ると、2020年10月20日の7時を指していた。

俺が大学生だったのは今から6年前までだ。


結局、夢だった。

ただ、限りなく現実世界に近い夢だった。


ふとテーブルを見ると、昨日飲み干した夢見の水のパックがあった。


これのせいなのか……??俺は夢見の水をじっと見た。ピンクのウサギが眠りこけていた。幸せそうに。



結局その日は1日中フワフワしていた。


本当にこの水の影響なのかと思い、その日の夜も、夢見の水を飲んでから眠りについた。

まだ半信半疑だった。

昨日はたまたまリアルな良い夢を見ただけだったのかもしれないから。



俺は宝くじ売り場の前に立っていた。

クラッチを1枚購入した。

何気なく買っただけだった。

1等は1000万円。

そんなの当たるわけないよなー

と思って擦ると、1等!?!?


すぐに銀行に行って、換金した。

目の前に1000万円。

こんなに沢山の一万円札を見たことがなかった。



たまらずずっと欲しかった車を買いに行った。

500万円の車を一括で買えてしまった。

欲しくても全然手が出ない車だった。


家の近くの駐車場を契約して、俺は車をそこに停めた。

駐車場に停めて、綺麗なレッドカラーの車体にしばらく見惚れてから家に帰った……

また、見覚えのある天井が見えた。


いつのまにか寝てしまったいたらしい。俺はスーツに着替えて、近所の駐車場に向かおうと思った。

今日からあの車に乗って出勤するんだ!

そう考えるだけで、ウキウキした。


しかし、家を出るときに異変に気付いた。

車の鍵がない。

どこにも鍵がない。

誰かに鍵が盗まれた!?まさか、車も……!?


俺は急いで、近所の駐車場に向かった。

車を停めていたはずの場所には別の車が停まっていた。

訳が分からなくなって、駐車場の管理者に電話した。

そうすると、あの場所は俺の車を停める場所でもなんでもなかった。


全部夢だったんだ。

電話を切ってから気付いた。

1000万円のうちの残りの金もないのだ。


なんでこんなリアルな夢を……



俺は薄々感じ始めてきた、夢見の水は本物なのかもしれないと。

今夜も飲むかどうか悩んだ。

朝起きて、夢だと気付いた時の落胆がとてもつらい。

夢の中では、これが夢なのか現実なのか全く判断できないのだから。


仕事を終えて帰宅した俺は結局、現実のようなリアルさを持った幸せを味わいたい気持ちに負けてしまった。

今夜も夢見の水を飲んで寝ることにした……

3日連続だ。

さて、今夜はどんな夢を見ることになるのか……



続く