夢見の水 〜2〜

誰かに呼ばれて、ステージに出ると360度見渡す限りの人がいた。


マイクが用意されていて、俺はそうするのが分かっていたかのように歌い始めた。

俺の声を聴いて、人々は盛り上がり、熱狂していた。


歌い終わると、スタッフに導かれるままに退場した。


東京ドームを出ると、出待ちをしていたファンの女の子に声をかけられて気付いた。

「あっ、これ夢だわ」


そもそも俺は歌手なんかじゃなくて、しがないサラリーマン。

俺は今、夢をみている。

夢なら何でも言えるはずと思い、彼女に

「俺のファンなんだよね?今からホテル行こっか?」と言った。

「ええ!もちろんいいですよ」とファンの女の子は返事をした。


随分と都合の良い世界だ。

俺は思わずフッと鼻で笑った。


他にも試してみるか。


通行人の女の子に抱き付いてみた。

「あっ、嬉しいです♡」と言われた。


どうやらこの夢の世界では俺はモテモテのようだ。


夢とはいえ、現実感があって最高過ぎた。

目覚めたくないなあと思ってると、景色が変わっていつもの天井が見えた。




やっぱり夢見の水は本物だった。

俺は確信した。


夢見の水を飲んで寝れば夢の中でまるで現実かのような幸せな体験ができるんだ!!


……街中に俺は立っていた。

ああ、夢の世界に来ているな。


この世界では待っているだけで幸福なことが舞い込んでくるが、今日は自分で動いてみよう。

女風呂でも覗いてみるか。

夢の世界の女の子は何をしても俺に好意的な態度を取ってくれた。

女風呂を覗いた時に歓迎されるなんて夢の中でしか味わえない。

俺はワクワクしながら近所の銭湯に向かった。


躊躇なく、女湯の暖簾をくぐるとそこには

着替えをしている女が沢山いた。

さあ、何て言うのか……


「キャーーー!!!!覗きーーー!!!」

女の悲鳴が耳元で響いた。


ん??おかしいぞ??

好意的な反応がない??

銭湯のスタッフが電話で警察に通報している。

覗きがいる。と


え?俺のことか?

いやでも、これは夢の世界だから問題ないはず……

早く覚めてくれ……

覚めろ覚めろ覚めろ!


いくらそう思っても目は覚めなかった。


近付いてくるパトカーのサイレンの音を聞きながら、目が覚めることだけを願っていたが願いが届くことはなかった。