職場トルロワイアル
毎日毎日、仕事。
今日も職場に吸い込まれて仕事。
なんなんだこの人生。
一番下っ端の俺はいつだって理不尽なことを要求され、理不尽に叱られる。
こんな会社辞めたくて仕方なかった。
職場のフロアに入ると、珈琲とおっさんが混じり合ったような臭いがした。
このワンフロアに社長も含めて全社員が閉じ込められている。
「風通しの良い職場です!」というアピールだが、そんなことは全くない。
上司の言うことが絶対。
上司が黒といえば、白でも黒。
そういう閉鎖的で前時代的な社風だった。
席に着くなり、課長が話しかけてくる。
「山下クゥン!君が昨日対応した案件、なんなんだねこれは!
こんなやり方じゃ全然ダメだよ全然ダメ!
ちゃんとアフターケアしなさい!」
「申し訳ございませんでした。」
すっかり定型文となった文章を口にする。
俺は入社してから何度この言葉を使ったんだろうか……そんなことを考えていると、社内放送が鳴り響いた。
「今から、あなたたちには殺し合いををを〜!してもらいまーーす!!ハハハ☆外に出られるのは〜〜1人だけーーー!」
プツンッ!という音と共に放送が切れた。
すぐに何人かの社員が放送室に向かったが、誰もいなかった。
「バトルロワイアルかよ。」と俺は修正指示があった書類を作成しながら思った。
どうせ誰かのつまらないイタズラだろう。
周りの社員も最初はザワザワしていたが、段々と通常の仕事に戻っていった。
異変が起こったのは昼休みに入ってからだった。
「外に出られないぞ!どうなってるんだ!?」と職場に入ってきて大声で話す専務。
会社の出入口は1階に1つ、地下に1つの計2つある。
そのどちらも開かなくなっていたとの話だった。
「ったく、故障かよ!」と毒づきながら係長が業者に電話をしようとしたが、電話が全く使えなくなっていた。
「どういうことだよ……」と言い、自分の携帯を見る係長。
「圏外!?」
俺も携帯を見ると、圏外と表示されていた。
どうやら、会社から出ることもできず、外部とも連絡が取れないようだ。
朝の放送を思い出した。
もしかして、俺らは本当に殺し合いをしなければ外に出られない……?
そんなバカなことがあるか??
俺は自分の考えを打ち消した。
午後になっても、状況は全く変わらず、俺は係長から
「おい!お前、外に出られないか調べてこい!」と命じられた。
会社内を見て回ると確かに2つの出入口が
閉鎖されていた。
唯一外に出られそうな窓も、外に置いてある大きなものがピッタリとくっついていて押してもビクともしなかった。ここから脱出もできなそうだった。
状況を係長に報告すると、舌打ちしながら
「ったく、てめえは使えねぇなあ!」と怒鳴られた。
「申し訳ございません。」
定型文で謝る。
17時、就業時間になった直後、また社内放送が入った。
「みなさーーん!お勤めご苦労様でーーす!ですが!誰も死んでいませんねぇ〜〜?このままだと外には出られませんよお!さあさあ、サッサと始めちゃってよ!こ、ろ、し、あ、い♡健闘を祈りまーーーす!!」
プツンッ!という音がして社内放送は切れた。
俺はフロアを見渡したが、今日出勤している人は全員フロア内にいた。専務を除いて。
専務の仕業なのか?
俺は放送室へと駆け出した。
放送室に近づくと異臭がした。
よく見るとドアの下から血のような赤い液体が滲み出てきている。
勢いよくドアを開けると、バラバラになった専務の死体があった。
死体のそばには手紙。
「やっほー☆君たちが誰も殺さないから僕ちんが殺っちゃった♡君たちも早く殺し合ってね!出られるの1人だけーー!!」
丸みを帯びた可愛らしい字でそう書いてあった。
これは間違いなく本当だ。
本当にバトルロワイアルが始まったんだ。
俺は悟った。
やるしかない。
「うわ!!山下クゥン!?これはどういうことだ!?お前がまさか!?」
追い付いてきた課長が放送室を見て叫んだ。
やるしかない。出られるのは1人だけ。
こいつにはいつもいつも虐げられてきた。日頃の恨みは積もりに積もっている。
「課長、あなたはいつも俺に無茶苦茶な指示をしてくれましたよね?いつも、理不尽な叱責をしてくれましたよね?どれだけ、俺が辛かったかわかりますか?課長ーーー!!!!!!死ねーーー!!!!」
俺は放送室に落ちていたハンマーで課長の頭を思い切り殴った。
骨が砕けるような音がして課長が倒れ込んだ。
絶命した課長を見下ろしながら俺は思わず笑顔になってしまった。
日頃の行いの報いだと感じ、溜飲を下げるような思いだった。
「みんな殺さなきゃ……俺はここから出るんだ。」
俺は会社も会社の人間も全てが嫌いだった。
休憩室の台所にある包丁を忍ばせて、社内を歩く。
廊下を歩いている係長を見つけた。
「係長ー!何してるんですか?」
係長の周りに誰もいないことを確認しつつ笑顔で話しかける。
課長を殺してハイになっていた俺は虫唾が走るほど嫌いな係長にも笑顔で話しかける余裕が生まれていた。
「なんだ、山下か。今、外に出られる場所がないか再確認してるところだよ。使えねぇ誰かさんが昼間に出入口を見付けられなかったからなあ!!」
係長が嫌味たっぷりに言う。
「使えなくて悪うございましたねーーー!!!!死ねーーー!!!!」
包丁を握りしめて、係長の頚動脈を切りつけた。
血が吹き出て、係長が倒れた。
「あースッキリ!職場はどうなってるのかな?」
俺は返り血を浴びたジャケットを脱ぎ捨て、職場のフロアに戻った。
フロアでは怒声が飛び交っていた。
普段は穏やかにやり取りしている部長と常務が殴り合っていた。
次長と本部長はハサミをお互いに持って睨み合っている。
話を聞いていると、どうやらお互いにそれぞれ長年の恨みがあって殺し合いをしているようだった。
社長は誰かに殺されたようで床に倒れていた。
俺はその様子を見て笑ってしまった。
「なぁんだ!!俺だけじゃなかったんだ!!みんなみんな、殺したいほど憎い誰かが会社にいたんだ!!俺だけじゃなかったんだ!!
狂ってやがる!!……いや、この会社なんてこんなものかもしれない。初めから全部狂っていたのかもしれないな」
そう思い、俺は包丁を握り直し、殺し合いが起きている輪の中に向かっていった。