夢BAR
ここは夢を見られるBAR。
夢BAR。
この場所を訪れた人々は熱く夢を語り合い、幸せな時間を過ごす。
今日もこのBARには夢を見ているお客さんが溢れている。
その中でも一際目立つ、バンドをやっていると思われる青年たちがいた。
せっかくだから青年たちが語る夢を聞いてみよう。
拓也は仲間たちに向けて、目をキラキラさせながら語った。
「なあ、俺たち卒業してからも音楽やっていこうぜ!そして、メジャーデビューしてドームでライブをするんだ!」
敦と大志と翼は肯定する。
3人の目は拓也と同じようにキラキラしていた。
4人は大学の軽音サークルに所属していて、バンドを組んでいる。
周りの同級生は就活し始めているけど、この4人には音楽をずっとやっていくという夢があるから就活はしない。
メジャーデビューをしてドームでライブをする。そんな夢を見ていた。
大学卒業後、4人はフリーターになり、夢のためにライブをし続けた。
稼いだお金はほほ全て音楽活動に消えた。
音楽と向き合い、曲を作り、小さな会場を抑えてライブをし続けた。
ライブ後は反省会をして、時には朝まで続くこともあった。
そんな日々を続けて3年が経った。
未だにメジャーデビューをすることはできていないが、4人はバンドを続けていた。
今日も小さな会場でのライブが終わり、反省会をしようという話になった時に大志が言った。
「あのさ……俺の彼女が妊娠しちゃってさ……そろそろ真面目に働かないとヤバくて……俺、バンドから抜けようと思うんだ……」
申し訳なさそうに俯く大志を見て、敦は
「そろそろそういう頃合いなのかもしれない」と思った。
もう俺らも25歳になった。
何度も何度もライブはしたが未だにメジャーデビューはできていない。
そろそろ現実と向き合う年なのかもしれない。
翼はバンドメンバーの誰にも話していなかったが、正社員として雇ってくれる会社を探して先月から就活していた。
親が体調を崩して、医療費が必要になったからである。
内定が出たらメンバーに伝えてバンドを抜けようと思っていた。
大志の脱退は翼にとって自分も今後、バンドを抜けるときの口実になるからありがたかった。
拓也は納得できなかった。
大志に向かって「そんなこと、突然言われても……そうだ、こんなところで話すのも何だし、昔よく行ってたあのBARに行って話さないか?」
4人は大学卒業前に来てからは1度も訪れていなかったあのBARに来た。
BARの内装は全く変わっていなくて、まるで時間が進んでいないかのようだった。
ハイボールを飲みながら拓也は大志に問いかける。
「なあ、大志、本当にバンドを抜けるのか……?俺たちの夢を思い出せよ!メジャーデビューしてドームでコンサートだ!
なあ、大志!」
拓也の目はあの日と同じくキラキラしていた。
大志はジントニックを一口飲んでから答える。
「……俺はバンドを続ける!だって俺たちには夢があるから!」
敦は2人の会話を聞いているうちに目が覚めた。
「なんで、頃合いなんて思っちまったんだ俺は……夢があるんだ!まだまだ俺らは頑張れる!!」
翼は密かに就活をしている自分を恥じた。
夢のために頑張る。それを辞めてしまったらなんの意味もない。
俺らは夢のために頑張らないといけないんだ。
4人はBARでお酒を飲み、店を出る頃にはすっかり昔の気持ちを思い出していた。
「俺たちの夢を叶えにいこうぜ!!!!」
そう目をキラキラと輝かせながら語る4人は夢以外何も見えていなくて、幸せそうだった。
妊娠した彼女も親の病気も4人には関係がない。
だって、彼らには夢があるから。