競馬場にはヤバい世界が広がっている
2/24、僕は有給休暇を取った。
労働への反抗である。
有給休暇の朝の空は晴れやかで、いつもより世界が輝いて見えたのは気のせいではないだろう。
せっかくの平日休み、普段はできないが前々からやりたかったことを実行することに決めた。
競 馬 場 に 行 く ! !
競馬といえば、中央競馬が一般的である。
僕は家を出て、片道1時間近くかけて浦和競馬場へ向かった。
……競馬場で待ち受けている様々な出来事のことなんか露知らずに。
到着!!
10時過ぎの到着だったので、まだ第1レースに間に合う時間だった。
競馬場に来るとめちゃくちゃワクワクしてきた。
ただ、興奮して大金をぶち込んではいけない。
「レースは全部で12レースもあるんだ。
最初からぶっ飛ばすのは間違いだ。落ち着け僕……」と自分に言い聞かせる。
〜第1レース〜
負け。
普通に負け。
まあ、最初だから仕方ない。
切り替えていこう。
〜第2レース〜
また負け。
かすりもしない。
大きく狙うのは良くないなと思い、堅実な馬券を買う作戦に切り替えた。
〜第3レース〜
複勝というガチガチの馬券を買って、今日初的中!
初当たりで少し嬉しくなったときに、僕は見てはいけないものを見てしまった。
後ろを振り返ると
呆然と立ち尽くしているおじさん。
ボロボロのコートが哀れな様子に拍車をかける。
おじさんが手には馬券が握られていた。だけど、ぼくは見なかった。
見てはいけないと悟った。
何やらブツブツ言っている。
これもまた、競馬の怖さだ。
普段ネットで馬券を買っていると見ることができない生々しい怖さ。
〜第4レース〜
哀れなおっさんを見たら心がしんどくなったし、ちょうど12時くらいだったからお昼ご飯を食べることにした。
第4レースは見送って、次のレースの情報を見ながらパンを胃に詰め込む。
僕もまた哀れなおっさんなのかもしれない。
〜第5レース〜
馬券を買いに行こうとしていると、帽子を被ったいかにもギャンブラーという風貌のおじさんに話しかけられた。
「よお、兄ちゃん!次のレースは堅いよなあ」
あまりにもフランクで一瞬知り合いかと思ったけど、知らない人だった。
おじさんはなおも話し続ける。
「このレースは11番で決まりだよ!簡単なレースだ」
自信満々に話し続けるおじさん。
だけど、僕もパドックで馬の様子を見て、11番が良く見えたので
「やっぱり11番が良かったですよね!」と返す。
「お、分かってるね兄ちゃん!あとは何を買うの?」
笑顔で話しかけてくるおじさん。
本命馬が一致したことで僕も話しやすくなった。
「後は、4番を買おうかなって思ってます。(4番のメイショウハヤナリという馬は僕がウマ娘で大好きなマヤノトップガンの孫だった)」
すると、おじさんは
「4番!?!?やめときなよ、あれは走らない。長年の経験で分かる。11番の次に良いのは2番だよ。あと、12番も悪くないな」と言い残して去って行った。
僕は揺らいだ。
確かにマヤノトップガンの孫という理由だけで馬券を買うのは違う気がした。
それよりも、長年競馬をやっているおじさんがくれたヒントを活かした方が良いのでは……??
そして、馬券の販売締め切り時刻が迫る。
僕は悩んだ末にこの馬券を購入した。
謎の競馬おじさんを僕は信じることにした。
こういう時は先人のアドバイスを頼るのが吉だろう。
そして、第5レースのゲートが開いた。
緊張しながら僕はレースを見守っていた。
結果は……
クソジジイーーーーーーー!!!!💢💢💢💢💢💢😭😭😭😭
マヤノトップガンーーーーー!!!!!😭😭😭😭😭😭
信じなくてごめん。
ごめん。本当にごめん。
マヤの孫は頑張ってた。
信じられなかった自分が悪い。
第6レース、第7レースはボーッと見てた。
予想をする気力もなかった。
でも、青空の下で馬が走ってるのをボーッと眺めるのは悪くない。
少しずつ元気が戻ってきて、次のレースあたりは馬券買おうかなと思いつつ、観戦していると、隣に競馬場には似つかわしくない上品な服装の老夫婦が立っていた。
「あの人たちが競馬……?そうか、定年したけど、やることがないから近所の競馬場で暇潰ししてるのか。きっと少額で楽しんでるんだろうな」と僕は思った。
「サセーーーー!!!💢💢」
その瞬間、隣から大声が聞こえた。
上品な老夫婦のマダムが叫んでいた。
僕は自分の思い違いに気づいた。
あの熱量は、何千円じゃ出せない。何万。
いや、下手するともっと……
それくらいの金がかかっていることを思わせる渾身の叫びだった。
叫びを聞いているうちに疲れてしまい、次のレースに賭ける気力もなくなった。
気付けば太陽がかなり西に傾いていた。
帰ろう……なんだか、とっても疲れた……
ヤバい世界を垣間見た体験による疲労感と身体の重さを感じながら、僕は競馬場を後にした。
軽くなったのは財布だけ。
競馬場にはヤバい世界が広がっていた。