【正義とは何か】日本昔話桃太郎〜鬼side〜
昔々、あるところに鬼ヶ島という鬼が暮らす島がありました。
鬼たちはその島でずっとひっそりと暮らしていましたが、鬼たちの数が増えてくるにつれて、食料が足りなくなっていきました。
やむを得ず、鬼たちは島から外に出て食糧を調達するようになりました。
鬼たちは技術が足りなくて作物の栽培ができなかったので、人間の畑を見て感動しました。
「この技術があれば我々も繁栄することは間違いない!」そう思い、人間に作物の栽培方法を聞こうと近づくと、人間は怯えて、鬼の話も聞かず逃げて行きました。
話し合いができず、人間も逃げていなくなってしまったので
鬼は家族のために畑から作物を盗みました。
本当はこんなことしたくはなかったけど、自分の家族を守るためでした。
「本当にごめんなさい。盗んでごめんなさい。」
鬼は心の中でそう謝り、作物を家族のために持ち帰りました。
ある日、血まみれになって死にかけの鬼が、鬼ヶ島にヨロヨロと帰ってきてみんなに言いました。
「みんな!逃げろ!人間と動物が攻めてきた!」
まもなくすると、刀を持った人間と、犬と猿とキジが鬼ヶ島にやってきました。
「人間を怯えさせて作物を盗む鬼ども!!正義のヒーロー、桃太郎軍団がお前らを倒す!!行け〜!家来ども!!」
犬と猿とキジが暴れて鬼を次々に殺していきました。
桃太郎と名乗った人間も刀をふるって鬼を斬って殺していきました。
「待ってください!俺たちは人間を脅したわけじゃなくて!!作物を盗んだのは自分の家族のためで……」
「黙れ悪の鬼ども!!正義は我にあり!!」と桃太郎は言って、鬼たちを斬り続けました。
武器を持たない鬼たちは桃太郎軍団に皆殺しにされてしまいました。
「よーーし!みんなよくやった!鬼たちは全滅だ!島から宝を持ち帰るぞ!これで正義は守られた!」
桃太郎軍団は鬼ヶ島から宝を持って帰っていきました。
そして、桃太郎の行いは「正義」として後世まで語り継がれることになったとさ。
めでたしめでたし。
職場トルロワイアル
毎日毎日、仕事。
今日も職場に吸い込まれて仕事。
なんなんだこの人生。
一番下っ端の俺はいつだって理不尽なことを要求され、理不尽に叱られる。
こんな会社辞めたくて仕方なかった。
職場のフロアに入ると、珈琲とおっさんが混じり合ったような臭いがした。
このワンフロアに社長も含めて全社員が閉じ込められている。
「風通しの良い職場です!」というアピールだが、そんなことは全くない。
上司の言うことが絶対。
上司が黒といえば、白でも黒。
そういう閉鎖的で前時代的な社風だった。
席に着くなり、課長が話しかけてくる。
「山下クゥン!君が昨日対応した案件、なんなんだねこれは!
こんなやり方じゃ全然ダメだよ全然ダメ!
ちゃんとアフターケアしなさい!」
「申し訳ございませんでした。」
すっかり定型文となった文章を口にする。
俺は入社してから何度この言葉を使ったんだろうか……そんなことを考えていると、社内放送が鳴り響いた。
「今から、あなたたちには殺し合いををを〜!してもらいまーーす!!ハハハ☆外に出られるのは〜〜1人だけーーー!」
プツンッ!という音と共に放送が切れた。
すぐに何人かの社員が放送室に向かったが、誰もいなかった。
「バトルロワイアルかよ。」と俺は修正指示があった書類を作成しながら思った。
どうせ誰かのつまらないイタズラだろう。
周りの社員も最初はザワザワしていたが、段々と通常の仕事に戻っていった。
異変が起こったのは昼休みに入ってからだった。
「外に出られないぞ!どうなってるんだ!?」と職場に入ってきて大声で話す専務。
会社の出入口は1階に1つ、地下に1つの計2つある。
そのどちらも開かなくなっていたとの話だった。
「ったく、故障かよ!」と毒づきながら係長が業者に電話をしようとしたが、電話が全く使えなくなっていた。
「どういうことだよ……」と言い、自分の携帯を見る係長。
「圏外!?」
俺も携帯を見ると、圏外と表示されていた。
どうやら、会社から出ることもできず、外部とも連絡が取れないようだ。
朝の放送を思い出した。
もしかして、俺らは本当に殺し合いをしなければ外に出られない……?
そんなバカなことがあるか??
俺は自分の考えを打ち消した。
午後になっても、状況は全く変わらず、俺は係長から
「おい!お前、外に出られないか調べてこい!」と命じられた。
会社内を見て回ると確かに2つの出入口が
閉鎖されていた。
唯一外に出られそうな窓も、外に置いてある大きなものがピッタリとくっついていて押してもビクともしなかった。ここから脱出もできなそうだった。
状況を係長に報告すると、舌打ちしながら
「ったく、てめえは使えねぇなあ!」と怒鳴られた。
「申し訳ございません。」
定型文で謝る。
17時、就業時間になった直後、また社内放送が入った。
「みなさーーん!お勤めご苦労様でーーす!ですが!誰も死んでいませんねぇ〜〜?このままだと外には出られませんよお!さあさあ、サッサと始めちゃってよ!こ、ろ、し、あ、い♡健闘を祈りまーーーす!!」
プツンッ!という音がして社内放送は切れた。
俺はフロアを見渡したが、今日出勤している人は全員フロア内にいた。専務を除いて。
専務の仕業なのか?
俺は放送室へと駆け出した。
放送室に近づくと異臭がした。
よく見るとドアの下から血のような赤い液体が滲み出てきている。
勢いよくドアを開けると、バラバラになった専務の死体があった。
死体のそばには手紙。
「やっほー☆君たちが誰も殺さないから僕ちんが殺っちゃった♡君たちも早く殺し合ってね!出られるの1人だけーー!!」
丸みを帯びた可愛らしい字でそう書いてあった。
これは間違いなく本当だ。
本当にバトルロワイアルが始まったんだ。
俺は悟った。
やるしかない。
「うわ!!山下クゥン!?これはどういうことだ!?お前がまさか!?」
追い付いてきた課長が放送室を見て叫んだ。
やるしかない。出られるのは1人だけ。
こいつにはいつもいつも虐げられてきた。日頃の恨みは積もりに積もっている。
「課長、あなたはいつも俺に無茶苦茶な指示をしてくれましたよね?いつも、理不尽な叱責をしてくれましたよね?どれだけ、俺が辛かったかわかりますか?課長ーーー!!!!!!死ねーーー!!!!」
俺は放送室に落ちていたハンマーで課長の頭を思い切り殴った。
骨が砕けるような音がして課長が倒れ込んだ。
絶命した課長を見下ろしながら俺は思わず笑顔になってしまった。
日頃の行いの報いだと感じ、溜飲を下げるような思いだった。
「みんな殺さなきゃ……俺はここから出るんだ。」
俺は会社も会社の人間も全てが嫌いだった。
休憩室の台所にある包丁を忍ばせて、社内を歩く。
廊下を歩いている係長を見つけた。
「係長ー!何してるんですか?」
係長の周りに誰もいないことを確認しつつ笑顔で話しかける。
課長を殺してハイになっていた俺は虫唾が走るほど嫌いな係長にも笑顔で話しかける余裕が生まれていた。
「なんだ、山下か。今、外に出られる場所がないか再確認してるところだよ。使えねぇ誰かさんが昼間に出入口を見付けられなかったからなあ!!」
係長が嫌味たっぷりに言う。
「使えなくて悪うございましたねーーー!!!!死ねーーー!!!!」
包丁を握りしめて、係長の頚動脈を切りつけた。
血が吹き出て、係長が倒れた。
「あースッキリ!職場はどうなってるのかな?」
俺は返り血を浴びたジャケットを脱ぎ捨て、職場のフロアに戻った。
フロアでは怒声が飛び交っていた。
普段は穏やかにやり取りしている部長と常務が殴り合っていた。
次長と本部長はハサミをお互いに持って睨み合っている。
話を聞いていると、どうやらお互いにそれぞれ長年の恨みがあって殺し合いをしているようだった。
社長は誰かに殺されたようで床に倒れていた。
俺はその様子を見て笑ってしまった。
「なぁんだ!!俺だけじゃなかったんだ!!みんなみんな、殺したいほど憎い誰かが会社にいたんだ!!俺だけじゃなかったんだ!!
狂ってやがる!!……いや、この会社なんてこんなものかもしれない。初めから全部狂っていたのかもしれないな」
そう思い、俺は包丁を握り直し、殺し合いが起きている輪の中に向かっていった。
もし、ロト6で2億円当たったら……(3)
引っ越した先はよくわからない田舎の土地だった。
少し広めのマンションを借りた。
仕事をしていないことを告げると、不動産会社は渋ったが、金があることを伝えると態度を一気に変えた。
キャバクラにのめり込んだ日々で浪費を繰り返していたが、それでも金はまだまだあった。
引っ越してからも、だらだら過ごしているとやることがない生活に飽きてきてしまった。
朝起きて、特にすることもない1日が始まる。
テレビを見たり、本を読んだりしても時間は有り余っている。
ふと、会社で働いていた日のことを思い出す。
確かにつらいことは多かったし給料も安かったけどあの生活も悪くなかったのかなと思った。
俺はふらふらと生活しているうちに、近所にお気に入りの小料理屋を見つけた。
いつのまにか、毎日のようにそこで夜ご飯を食べて酒を飲む生活をするようになった。
一回の食事で使うのはせいぜい2〜3000円。
安いわけではないが、キャバクラ通いの日々から比べると相当安い。
小料理屋の看板娘とよく話すようになった。
名前は花という、28歳のいたって普通の、いや、どちらかといえば地味目な女だった。
俺が店に行くと
「あっ、智さんいらっしゃい。今日はカレイの煮付けがオススメですよ!」などとにこやかに迎えてくれる。
花と話してる時が俺にとっての癒しの時間だった。
ある日、花と水族館の話になって、2人でデートに行くことになった。
女の子と2人で遊ぶのはサヤカちゃんとのデート以来だった。
俺はデートに向けて、服を買い、髪を美容院で整え、来たる当日に向けて準備をした。
「智さん、お待たせしました。」
花は白いロングスカートにベージュのカーディガンという格好で現れた。
よく似合っていて可愛かった。
水族館で魚を見ながら、花が俺に聞いてきた。
「そういえば、智さんってどんなお仕事してるんですか?」
一番聞かれたくない質問だった。
悩みに悩んで
「実は働いてないんだけど、収入源があってね……」と答えた。
「あっ!不動産とか持ってるみたいな、そういう感じですか?」
「そうそう!そんな感じ……」
「そうなんですねー!」
なんとかごまかせたようだ。
宝くじが当たってその当選金で生活してるなんて言えないし、何よりなんだか格好良くない気がした。
水族館で魚を見て、定食屋で夜ご飯を食べてその日は解散した。
花とのデートはとても楽しかった。
一緒にいて落ち着く女だった。
それから数日後、小料理屋で食事をしていると、花から話しかけられた。
「ねぇ、智さん、昨日のニュースで見たんですけど、不動産の価格が急上昇してるんですって!私も不動産投資やってみようかなって思って!智さんのオススメはありますか?」
ヤバい。非常にヤバい。
本当は俺は不動産なんて持っていない。
そんなニュースも初めて聞いたし、当然知識もない。
「あぁ〜色々あるからねー今度まとめて持ってくるよ」
花に頼りになる男というアピールをしたくて、そんな約束が口から飛び出てしまった。
家に帰ってから俺は不動産について勉強を始めた。
自分でも何か持っておいた方が良いかと思って、ネットで調べてなんとなく良さそうだった4000万円の物件を購入した。
不動産投資について勉強をしてみて再確認したが、俺は馬鹿だった。
用語の意味も不動産投資の形態も全くと言っていいほど理解できなかった。
結局、花にはインターネットでオススメされているようなものを伝えた。
何度もデートしているうちに俺は花のことが本当に好きになっていた。
告白しようと何度も思ったが、サヤカちゃんの失敗が頭をよぎってためらってしまっていた。
それでもやっぱり、俺は花のことが好きで好きで仕方なくて、告白をした。
「智さんの気持ちは嬉しいです。だけど、これだけ聞かせてください。智さんは前に不動産投資のようなものでお金を稼いで仕事はしてないと言ってましたが、あれって嘘ですよね?本当は何の仕事をしてるんですか?」
花には嘘を見抜かれていた。
そりゃそうかもしれない。ろくに知識もない俺の話なんて間違いだらけだったはずだ。
本当のことを話そう。そう決めた。
「実はさ……前に、宝くじが当選して、その当選金で暮らしてるんだ。」
花は驚いた表情を浮かべて聞いてきた。
「そうだったのね、じゃあ今は仕事も何にもしてないの?」
「ああ、そうだよ。でも、普通に暮らしていけるだけのお金はあるよ!」
「でもそれって私は違うと思うな。何もしていないのってなんだか虚しくない?私は働いてる人が好きだな。」
「俺、働くよ!そしたら付き合ってくれる?」
「そうね……考えさせて。」
次の日から俺は就活を始めた。
既に32歳。
俺の職歴には2年の空白ができていた。
何社も何社も受けるが全て不採用。
それでも何とか頑張り続けていた。
就活を始めて半年後、花から
「ごめんなさい。彼氏ができました。あなたとはもう会えません。」と連絡が来た。
ちょうど、30社目の不採用通知を受け取ってムシャクシャして酒を飲んでいた時だった。
まただ、またこんな結末。
金があれば全て上手くいくと思っていた俺が馬鹿だった。
1人で住むには広すぎる部屋で俺は声を上げて泣いた。
就活もやめた。
これから予定されていた面接も全てキャンセルした。
何もかもがどうでも良かった。
手元にはまだ1億以上残っている。
これから質素な生活を続ければ、働かずに一生過ごすことはできるだろうが、何もせず過ごす一生はあまりにも長過ぎる。
結局、俺はまた遠くの地へ引っ越した。
全て忘れたかった。
そこでは人とあまり関わらないように過ごしていた。
一度上げてしまった生活水準は戻すことができず、湯水のように金を使う生活は続いていった。
趣味がほしくて色々と高いものを買って一式揃えてもすぐに飽きるというのを繰り返していた。
何にも得るものはなかった。
無為に生きているだけだった。
ーーーーーーーーーーーーー
……随分、長く話してしまったね。
そんな生活を8年続けて、今、俺は40歳になった。
もちろん働いてもいないし、今さら働ける気もしない。
不動産も手放したし、宝くじの当選金の残りは100万円を切った。
このままだとお金はなくなる。
だから、もう、こんな人生を終わりにしようと思ってね。
最後に自分の人生がどんなものだったか吐き出したくてついつい長く話しちゃった。
こんな長い話を聞いてくれてありがとう。
ロト6で2億円当たった時はさ、
俺は世界で一番幸せだと思ったんだよ。本当に。
でも、これって幸せだったのかな?
今となってはよく分からないよ。
じゃあそろそろ俺は行くね。
さよなら。
君は良い人生を。
もし、ロト6で2億円当たったら……(2)
サヤカちゃんのことが頭から離れなくなった俺は、メールを送っては携帯をチェックして返事があれば喜び、返事がなければ落胆するようになり、恋の病と言われても仕方がないような状況だった。
サヤカちゃんとたまに2人きりで会うこともあったが、お店で会うことが多かった。
初めてのデートから1ヶ月半を過ぎた頃、街を歩いてると、他の男と腕を組んで歩いてるサヤカちゃんを見かけた。
見間違いだと思った。
見間違いだと思いたかった。
だけど、間違いなくサヤカちゃんで。
目の前が真っ白になった。
その日の夜、サヤカちゃんにメールをした。
「昼間一緒にいた男の人はだれ?」
すぐに返信が来た。
「智さんこんばんわ♡あれはお客さんですよ〜」
サヤカちゃんはキャバクラで働いてるから他のお客さんとも腕を組んで歩くくらい普通だろうと頭では思いながらも、嫉妬心がおさまらなかった。
「あのさ……サヤカちゃんには、俺以外の男とそういうことしてほしくないな。
俺だけを見てほしい。俺と付き合ってほしい。」
勢いに任せてそんなメールを送った数秒後、激しく後悔したが、携帯の画面に表示されている送信完了の4文字。
返事を待っている時間が永遠に感じられた。
やっと震えたと思った携帯は、メールを送ってから5分後だった。
「智さんの気持ちはとっても嬉しいんだけど、私は今誰かと付き合うとかは考えられなくて……ごめんなさい。」
今思うと、完全に俺のことなんか眼中になかったんだろうな。
上手い断り方だと思うよ。
ただ、あの時の俺は馬鹿だった……
「今はってことは、いつかサヤカちゃんに振り向いてもらえる時が来るってことだよね?期待して待っててもいいかな!?」と返信をしてしまった。
それから、サヤカちゃんの連絡はなかった。
次の日、心配になった俺はお店に行って、サヤカちゃんを指名した。
いつもと様子が明らかに違っていた。
他人行儀な感じで俺を避けていた。
「ねえ、サヤカちゃん!昨日のことなんだけど、ほんとごめん!
俺が悪かったよ!また遊びに行こうよ。サヤカちゃんが欲しいものいっぱい買ってあげるからさ!!」と縋り付くように俺は言った。
「いや、あなたとはもう遊びに行きません。欲しいものもないので大丈夫です。」サヤカちゃんはゴミを見るかのような視線を向けてきた。
「ねぇ……どうして、サヤカちゃんは俺のこと嫌いになっちゃったの……」
「初めから智さんのこと好きじゃなかったです。実は私、明日でこのお店辞めるんです。だから、もうこれ以上私に付きまとわないでください。」
「えっ……そうなの……?なんで……?」
「別にあなたに伝える必要なんかないでしょ。金は持ってるかもしれないけど、あなたみたいな気持ち悪くて話もつまらなくて中身が空っぽな人間、好きになるわけないじゃん」
そこから先はよく覚えていない。
気が付いたら俺は家の床で寝ていた。
この1ヶ月半、サヤカちゃんに使ったお金は優に500万円は超えていた。
いくら2億円があるといっても出費としては少なくない。
気持ち悪くて話もつまらなくて中身が空っぽな人間。
ずっとその言葉がリフレインしてる。
悔しいがその通りだった。
俺はたまたま6個の数字を的中させて、大金を手にしたけど他は何にも変わらない自分のままだった。
何かを成し遂げたわけでもない。
この街を出よう。
誰も俺を知らない、俺も誰も知らない。
そんな街に出ていこう。
社会人になってからずっと住んできた六畳一間のアパートを退去して、都会の街並みを離れて、静かな街へと俺は引っ越すことにした。
その引っ越した先で、さらに大きな転機が訪れるとはあの時は思いもよらなかった……
続く
もし、ロト6で2億円当たったら……(1)
俺は智(さとし)、40歳。
少し長くなるが、昔の話をするから聞いてもらいたい。
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今から10年前。
俺は彼女もいなければ友達もいない人間だった。
一応働いてはいたが、うだつがあがらない社会人で、世間的に見れば、俺の働く会社は小さな企業で給料もかなり安かった。
そんな俺に大きな転機が訪れるなんて夢にも思わなかった……
ある休日、特にやることもなく、俺は昼から1人で居酒屋で酒を飲んでいた。
帰りになんとなくロト6を1000円分購入した。
それからロト6を買ったことはすっかり忘れていたが、当選日から数日後にふと買ったことを思い出した。
当選番号を確認すると、なんと、1等の2億円が当たっていた。
そこから数日間はフワフワした気分で過ごしていた。
何にも手に付かないような状況で珍しく仕事でミスを連発した。
上司に叱られても何とも思わなかった。
もはや、意識はこんな小さな会社にはなかったからだ。
そして、俺は会社に退職すると伝えて仕事を辞めた。
辞めても全く困ることなんかない。
俺の手元には2億円があった。
何か欲しいものがあるわけでもなければ、やりたいこともないけど、この2億円で俺は変われる。
そんな気がした。
2億円を手にしてから最初の1ヶ月はのんびりとした生活を思い切り楽しんだ。
好きな時間に起きて、好きな時間に寝る。
朝早く起きて、満員電車に詰め込まれて、夜遅くまで働く生活から解放されただけで幸せだった。
だけど、1ヶ月も人と話をしない生活を続けているうちに悲しくなってきた。
人とお喋りがしたいと思った俺はキャバクラに行ってみた。
仕事をしていた頃に上司の付き合いで2、3回行ったことがあるくらいだが、とても気持ちよく喋れたことを覚えている。
初めて行った日はとりあえず10万円くらい一晩で使ってみた。
10万円なんか大したことない額だったが、キャバ嬢はそれなりに気を良くしてくれたみたいで、楽しくお喋りさせてくれた。
俺はしばらく感じてなかった心の安らぎと胸のトキメキを感じた。
「また来たいな……」と思った。
次の日、またそのお店に足を運んだ。
一杯目から高いお酒を頼むと、昨日よりもキャバ嬢たちは色めき立っていたような感じがした。
その中のとても俺好みのサヤカちゃんという子がいた。
今まで女と付き合ったことがない俺はとても緊張したが、サヤカちゃんに連絡先を聞いてみた。
サヤカちゃんはニコニコしながら「もちろんいいですよぉ♡智さんと遊びに行きたいです♡」と言ってくれた。
すっかり舞い上がってしまった俺は店を出てすぐにサヤカちゃんに連絡をした。
「今日は楽しかった!また会いたいなあ」と
サヤカちゃんはすぐに返事をくれた。
「こちらこそ楽しかったです♡またお喋りしたいなあ♡」
ハートマークを見てサヤカちゃんは俺のことを好きなんじゃないかな?と思い、さらに舞い上がった。
さっき払ってきた30万円のことなんかすっかりどうでもよくなった。
そして、俺は次の日、またキャバクラに行ってしまった。
3日連続のキャバクラ。
お目当てはもちろんサヤカちゃん。
サヤカちゃんに良いところを見せたかった俺は100万円のシャンパンを開けた。
サヤカちゃんはとっても喜んでくれて、帰り際に呼び止められて
「あの……実は昨日教えたのはお店の携帯の連絡先で、これは私個人の連絡先です♡連絡待ってますね♡」と言われて個人的な連絡先を教えてくれた。
サヤカちゃんに連絡を取って、店の外で会う約束をした。
俺は完全に自分に波が来ていると思った。
そして、サヤカちゃんとのデートの日。
煌びやかな私服と高そうなバッグを持ってサヤカちゃんは現れた。
とても23歳とは思えないような格好だった。
「智さんこんにちは!今日はよろしくお願いしますね♡」とニッコリ笑うサヤカちゃんは天使かと思った。
サヤカちゃんが前から気になってたというお店でショッピングを楽しんで、夜景の見えるイタリアンレストランでディナーをするというデートプランだった。
「見て見て智さん!このネックレスどうかな?私に似合うかな?」と話しかけられる。
ゴールドを基調としたネックレスはサヤカちゃんによく似合いそうだった。
「うん、似合うと思うよ。」と俺は答えた。
「ほんと!ありがとー!智さんにそう言われると欲しくなっちゃったな♡……あっ、でも20万円かぁ……高いなあ……」サヤカちゃんが目に見えて落胆している。
「買ってあげよっか?」と俺は言った。
20万円でサヤカちゃんが喜んでくれるなら全然問題ない。
「えっ、嬉しい♡智さんだいすき〜♡」
サヤカちゃんが腕にしがみ付いてきた。
フワッと香水の良い香りがして、俺はとてもドキドキした。
夕食は夜景を眺めながらイタリアンを楽しんだ。
もちろん、ここも全て俺の奢りだ。
サヤカちゃんは目をキラキラさせながら食事を楽しんでいて、良い雰囲気だった。
さて、ここからが勝負だ。
実はサヤカちゃんには話していなかったが、近くのホテルの予約を取っていた。
なんとかしてサヤカちゃんと一夜を過ごし、俺は童貞卒業をしたかった。
「あのさ、サヤカちゃん。これからなんだけど実は部屋を取っててさ、どうかな?」
「そうなんですか!気持ちはとっても嬉しいですが、明日、朝早くから用事があって……帰らないといけないの……ごめんなさい」
申し訳なさそうにサヤカちゃんが答えた。
用事があるなら仕方ないか、まあ焦ることもない。と俺は思った。
家に帰って1日のデートを思い返しているとドキドキが再燃してあんまり寝付けなかった。
さっき別れたばかりなのにもう会いたくなってる。
俺はサヤカちゃんに完全に恋をしてしまっていた。
続く。
好きな匂いの話
金木犀の香りが広がる秋。
僕はこの香りが結構好きだったりします。
ただ、僕は割と特殊な匂いも好きみたいで……
特に昔すごく好きだったやつで、スーパーとかにあるアイスとか冷凍食品売ってる冷凍庫。
あの中の匂いが大好きでした!!!
親とスーパーに行くと、アイス売ってるショーケースに頭を突っ込んでずっと匂いを嗅いでました。
大好きな匂いでしたが、ある日、親に見つかってめっちゃ怒られてました。
そりゃそうだ、ショーケースに頭突っ込んでるんだもんな。
こないだ、スーパーに行った時に、こっそりアイスのショーケースの匂いを嗅いだんですが、なんであんな匂いが好きだったか分からなかったです。
大人になってしまったのかなあ。
仕事辞めたいマンの一生
仕事辞めたいマンは今日も出勤の道すがら、呟きます。
「仕事やめたい……」
仕事辞めたいマンは今、社会人2年目の24歳。
仕事辞めたいマンは金曜日の退勤時に叫びます。
「やったーーー!!休みだーーー!!!」
仕事辞めたいマンは疲労のあまり、土曜日を寝て過ごします。
そして日曜日の昼頃からソワソワし始めます。
「また明日から仕事?5連勤?仕事やめてぇ……」
これが仕事辞めたいマンの1週間です。
仕事辞めたいマンは月曜日の朝、電車に飛び込む妄想を何度も何度もしますが、死ぬ度胸がないので飛び込めません。
ビビりなので。
こうしてるうちに、仕事辞めたいマンの同期が退職することになりました。
別にやりたいことが見つかって、転職するとの話でした。
仕事辞めたいマンはその人を見送りながら
「あーあ、僕も仕事辞めたい……」とこぼします。
だけど、仕事辞めたいマンは今の仕事はもちろんですが、他にやりたい仕事もありません。
仕事辞めたいマンは「辞めたい、辞めたい」
と言いながらズルズルと職を続けていきます。
そして、約40年後……
仕事辞めたいマンは仕事辞めたいと言い続けながら働き続けて定年退職を迎えます。
「やっと!この仕事やめれる!仕事行かなくていい!!」
勤務最終日、仕事辞めたいマンは職場を出て高笑いをしました。
帰りに珍しくお酒を買いました。
お世辞にも良いとは言えない家で飲んでいる時に、ふと自分の仕事人生を思い返して気づきました。
「40年間仕事してきたけど、つらい、仕事やめたい以外の感情がなかったな……僕は40年間の仕事人生はなんだったのかな……?」と
仕事辞めたいマンは後悔しました。
自分のやりたいことすらなく、言われたことだけを「つらい、辞めたい」とこぼしながら続けた40年。
自分の代わりに誰がやっても勤まる仕事をイヤイヤ続けた40年。
仕事辞めたいマンの仕事人生は何だったんだろうか。
日本に大量にいるであろう仕事辞めたい社会人には、仕事辞めたいマンのような結末を迎えることがないように祈っています。