目標進捗管理至上人間
目標を達成するために全ての物事を管理して計画的に進めていくこと、これが大切。
山田のモットーだった。
昔から山田はそうやって生きてきた。
目標を達成するために無駄なことは一切せず、最短経路で突き進む。それが1番だと信じて生きてきた。
小学生の頃、テストで良い点を取るためにテストの範囲をひたすら勉強していた。
テストまであと何日あるかを考え、常に計画して勉強を進めてきた。
成績優秀の山田は一流大学に進学した。
そして、計画的に就活を終え、一流企業に入った。
山田は常に自分の目標と、それに向けてやることを計画立てて管理をしていた。
30までに結婚したいと考え、女と付き合い、計画的なプロポーズをして、結婚した。
山田の目標は達成された。
32までに子どもが欲しかった。
山田は計画的な子作りに励んだ。
32の時に子どもが生まれた。
山田の目標は達成された。
40までには課長に昇進したかった。
山田は目標に向けて計画を立てて努力を続けた。
真面目にサボらず、日々的確に仕事をしていった。
山田はそして、また目標を達成した。
山田にはあまり友達がいなかった。
趣味もなかった。
でも、それでよかった。
仕事や学業が全てでそれ以外は無駄だと思っていた。
全てが順調だった。
それまでは。
山田が50歳の頃、子どもが大きな犯罪を犯してしまった。
山田は子どもの犯罪により会社内で不当な扱いを受けるようになった。
ずっと目標を決めて計画を立てて努力して達成しながら生きてきた山田にとって、努力してもなんともならないことにぶち当たってしまった。
妻は山田に言った。
「ずっと思ってたんだけど、あなたはまじめに頑張りすぎよ。少しはサボってみたらどう?」
これまでの山田ならそんな話は聞き入れなかっただろう。
ただ、どうにもならない状況だったから、気の迷いからかそういうのも良いかもしれないと思い、会社をサボって海を見に行った。
山田は朝にスーツ姿で海に向かう自分が信じられなかった。
これまでの人生で仕事や学校のサボりなんてものは一度もしたことがなかった。
サボりは目標達成のための遠回りでしかないと思っていた。
朝の海はキラキラと輝いていた。
海は悠然としていて、自分がいかにちっぽけか思い知らされた。
山田はいつのまにか泣いていた。
自分の努力でどうにもならない部分でうまくいかないということにぶつかった山田は生まれてから50年、初めて目標達成のため以外の無益な行動をした気がする。
だけど、それがこんなにも心地よかったなんて。
山田は自分のこれまでの人生を振り返ってまた泣いた。
目標達成することだけが人生じゃなかったんだ。と山田は気付いた。
海は哀れなおっさんを慰めるように、優しく光っていた。