【日本昔ばなし】不幸なネコ
昔々、あるところに不幸なネコがいました。
不幸なネコはジメジメした森の中に住んでいました。
すみかの森には餌となる生き物が少なく、美味しい生き物もほとんどいませんでした。
不幸なネコは餌を食べながら、いつも考えていました。
「こんな美味しくない餌しか食べられないうえにジメジメとした森に住んでいる。僕は不幸だ」
街に行けば人間の食べ残しにありつけるし、ネズミなんかも沢山いる。
美味しいものがたくさんある。
不幸なネコは風の噂でそんな話を聞きました。
「街に行けば僕も幸せになれるに違いない!こんな不幸な生活とはおさらばできる!」
不幸なネコはそう考えて、街に出ることを家族に告げました。
家族は反対しました。
「街に行くのは危ないよ。出て行って欲しくないの。それに、人間は何をするか分からないし住む所もないかもよ」
だけど、不幸なネコは家族の反対を押し切り、ジメジメとした森を出ました。
こんな不幸なまま歳をとって死んでたまるか!
不幸なネコはそんな気持ちでした。
しばらく歩いて、不幸なネコは街に着きました。
路地裏には人間が食べ残したゴミが捨てられていました。
不幸なネコはそれを食べました。
普段食べている餌と比べ物にならないほど美味しかったので、不幸なネコはそのまま路地裏に住むことにしました。
そして数年が過ぎました。
相変わらず人間の食べ残しやネズミを食べて不幸なネコは生きています。
不幸なネコは、街中に毛並みが綺麗なネコがちらほらいることに気付きました。
人間に飼われているネコたちです。
可愛がられ、身の安全や餌が保証されている生活を送っているネコたちです。
不幸なネコは思いました。
「僕は毎日汚れながら自分で餌を探しているのに、あいつらは毛並みも綺麗で黙ってるだけで餌がもらえる。僕は不幸だ」
そう思っているうちにまた数年が経ちました。
不幸なネコは結構な歳になっていました。
身体も自由が効かなくなってきました。
身体が動かないので餌も思うように手に入らなくなっていました。
冬の風が冷たい路地裏で不幸なネコは考えました。
「僕は産まれてからずっとずっと不幸だと思ってきた。結局、人間に飼われることが幸せだったのかな?」
不幸なネコは人間に飼われる自分を想像しました。
「よく考えると、人間に飼われるのは自由がなくて不幸だな」
不幸なネコはまた考えます。
「じゃあ僕はどうしたら幸せになれたのかな?」
寒さのせいか、しばらく餌を食べられていないせいか、身体の感覚がなくなってきました。
「もしかして、僕は幸せになることなんてどう足掻いてもできなかったのかもしれない。
思い返せば自分が持っているものの良いところは見ずに悪いところだけを嘆いていた気がする。」
不幸なネコの意識が遠のいていく 。
「毎日普通に餌も食べられたし、家族もいたし、僕はあのジメジメとした森に生まれた瞬間からずっと幸せだったのかもしれない」
「だとしたら、僕を、苦しめていた不幸な気持ちってなんだったんだろう……
自分の考え方ひとつで……全然違う一生になったのかもしれない……次に……産まれるときには……もっと、幸せを感じ取れる……自分で……あり……
た……い……」
不幸なネコの目が閉じられた。
不幸なネコは最後に幸せとは何かを見つけた。
気付くのには少しばかり遅過ぎたけれども。