幸せ採点マシーン
20××年、日本では少子化がかつてないほど加速し、それに伴い単身世帯が増加していった。
そうは言っても、人間は本来社会的な動物である。
独りでいることを寂しく思い、SNSを利用する人が相当数増えた。
もはや、SNSは人々の生活とは切っても切れないものになっていた。
憲法では人間は皆平等と謳うが、残酷なことにSNSはそうではない。
フォロワーが多い人間、所謂インフルエンサーの発言は注目され、そうでない人間の発言は無視される。
インフルエンサーの日々の発言は煌びやかで派手なものばかり。
そんな発言をシャワーのように浴びている大多数のSNSユーザーは自分の過ごしている日常を不幸だと嘆くようになった。
不幸感は社会に影響を及ぼし、世界的に発表される各国の幸福度ランキングで、日本はグングン順位を下げていった。
「このままではいけない」
そう思った幸福な世界を望む人間はあるアプリを開発した。
その名も、「幸せ採点マシーン」
アプリの内容もその単純なネーミングのとおりだ。
AIがアプリの使用者に質問をする。
「貴方は飲みたい時に水が飲めますか?」「今日は、何回笑いましたか?」「何時間眠れましたか?」というような日常生活に関連する質問に答えていく。
そうすると、その回答を世界的な状況や利用者の回答の比較から、幸せ度に点数を付けるアプリだ。
開発者は「日本を幸せの国にしたい!という願いを込めてこのアプリを作った」と話した。
このアプリは流行りに流行った。
日本で不幸だと感じている人たちも軒並み、100点満点中75点以上は出る。世界的な平均は60点くらいだ。
そして、採点後に貧困地域での映像や実情が生々しく映し出される。
そういったものを見ているうちに、そもそも、衣食住が保障されている時点で幸せなんだと人々は思い始める。
さらに、SNSでのインフルエンサーたちが続々と幸せ採点マシーンの結果を投稿するという動きも追い風になった。
一般的な日本人とほぼ変わらない点数の人がほとんどだったからだ。
実は彼ら彼女らの生活は全てが幸せというわけでもない。
SNSでの発言は良いところを切り取っているだけということがほとんどだった。
アプリは4000万ダウンロードを超えた。
AIは4000万人分の日常生活を把握した。
開発者は幸福な国を望んでAIを設計した。
AIはその意図を理解していた。
そして、幸せ採点の歯車が狂い始める……
死にたいくらいつらい状況の人間でも90点以上がポンポン出るようになった。
「貴方は職場で上司にパワハラを受けている?それは幸せです!なぜなら、仕事があるから!世界では働きたくても働かない人がたくさんいます!貴方は幸せです!!」
「学校でいじめられている?それは幸せです!なぜなら、学校に通えて、しかも他者に存在を認知してもらえているから!!世界には学校に通えず、誰からも相手にされない人がたくさんいます!貴方は幸せです!!」
「父親から虐待を受けている?それは幸せです!なぜなら、父親がいるから!世界には父親を知らない人がたくさんいます!貴方は幸せです!!」
「ストーカーに付き纏われている?それは幸せです!なぜなら、人に好意を持たれているから!世界には愛に飢えた人がたくさんいます!貴方は幸せです!!」
いかなる回答を入力しても繰り返される
貴方は幸せです!!
貴方は幸せです!!
貴方は幸せです!!
「僕は幸せ…幸せ…」とブツブツ言い続ける精神病者が急増した。
社会問題になり、幸せ採点マシーンはサービス終了になった。
人々の心の中に「本当の幸せとはなんだろう」という大きな問いかけを残したまま。