35歳フリーター、街コンの思い出


35歳フリーターはコンビニのバックヤードで黙々と作業をしていた。

蒸し暑くて、汗が止まらない。

入ってきた商品を検品していると、同じシフトの24歳の男から話しかけられた。

「あ〜!彼女欲しいっす!こんな生活してても全然女の子と出会いがないんですよね。自分、マッチングアプリもやってるんですけど、女の子と全然会えなくて……」


それはそうだ、マッチングアプリは圧倒的に女が上位の社会。

24歳という若さがあってもコンビニでバイトしてる男なんかが選ばれるわけがない。

35歳フリーターはそう心の中で思った。


「でも、街コンとかなら絶対女の子と会えるし良いかな〜って思ってるんですよ!街コンどう思います!?」


街コン……

35歳フリーターに昔の記憶が蘇る。

そう、まだ35歳フリーターではなく、34歳フリーターだった頃の記憶が……


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34歳フリーターは彼女が欲しかった。

独り暮らしも長いので、寂しさを感じる時もあり、人肌が恋しかった。

でも、彼女を作る手段は分からない。

色々とインターネットで調べてみた。

すると、とある記事が目に止まった。


【30代〜40代男性急募!1人参加OK!】

そんなタイトルの街コンだった。

心を惹かれて詳細を確認すると、女性は20代〜30代が対象だった。

34歳フリーターは「20代女子と付き合えるかも……!!」という下心で参加を決めた。


ウキウキして数年ぶりにUNIQ◯O以外で服を買った。

そして街コン当日。

34歳フリーターは、街コン会場である雰囲気の良い個室ラウンジに到着した。

これまでの人生で一度も足を踏み入れたことがないような場所だった。


会場内には複数人が来ているたちが多く、34歳フリーターは1人で大丈夫かと不安になったが、単身で参加する人向けの街コンということもあり、会場内に司会進行役がいた。


34歳フリーターは安堵した。

どうやら街コンはプログラムが決められていて、そのとおりに進むようだった。


男女が向かい合って会話をして10分経つと席替えがあり、移動をして別の人とまた10分会話する。

そう聞いて34歳フリーターは一気に緊張してきた。

初対面の見ず知らずの女性と10分も話す!?

ハードルが高過ぎる。何も話すことがない。

そんなの無理だ。助けて欲しい。帰りたい。

そう思ったが、無常にも時計の針は進み、街コンは始まった。


最初の女性は、20代後半の会社事務の女の子だった。この子の名前はもう忘れたので、A子とする。

A子は、緊張する34歳フリーターに気を遣って上手く喋ってくれた。

コミュ力の高さに驚いた。これが正社員の力なのだろうか。

出身地や最近ハマってることなどを話しているうちにあっという間に10分が経過した。

後で振り返ると、34歳フリーターの発言量は全体の1割程度だったと思う。

だが、34歳フリーターは変な自信がついた。

自分は20代の女性とも話せるんだ!という自信が。


次の女の子は、20代後半の飲食関係の社員だった。名前はB子とする。

B子も最初は丁寧に愛想良く話してくれていた。


仕事の話になるまでは……


「お仕事って何をされてるんですか?」

「僕は、今はコンビニと本屋で働いています。」

「コンビニと本屋……?失礼ですが、バイトですか?」

「ええ、バイトですが」

「そうですか……」

ここからB子はあからさまに冷たくなった。

早く話を切り上げたくて仕方ないのが伝わってきた。

世間はフリーターに冷たい。

30代で若い女を捕まえられるのは、金がある男の特権なんだ。

34歳フリーターは壊れゆく精神の中で理解した。


次の女とは何を話したかも名前も覚えていない。

ただただ悲しかった。自分の無力さが悲しかった。

所詮、自分はフリーター。



その一件から、街コンには参加していない。

結局、それなりに高い参加費を払って手に入れたのは、自己肯定感の低下と女性に対する恐怖心だけだった。